2015年2月1日、高円寺の明石スタジオで肯定座第4回公演『オールライト☆なぅ』千穐楽を観た。
作・演出は太田善也(散歩道楽)、舞台監督は今井聰・三宅亮一、照明は松田直樹、音響は樋口亜弓、美術は田中敏恵、HP製作は斉藤智喜、振付は流星流次郎、方言アドバイスは釈八子(tsumazuki no ishi)、スチールは宮本雅通、チラシデザインはmah+ナカマリ、制作は岩間麻衣子・肯定座制作部。企画・製作は肯定座。
協力は(株)エコーズ、(株)大沢事務所、SASENCOMMUN、散歩道楽、渋さ知らズ、青年座、タテヨコ企画、(株)スターダスト・プロモーション、(株)スターダス・21、ドリームダン、ヒンドゥー五千回、(有)モスト・ミュージック、日高舞台照明、カルテト・オンライン。
生バンド(せっきー:関根真理dr、たっつん:辰巳小五郎Tp、ひろぽん:田中裕之key)の演奏と店所属のシンガーによる歌が売りの店オール・ライト。しかし、今時はやらないスタイルの店ゆえお客も数少ない常連だけで、オーナー(安東桂吾)は苦しい経営を強いられている。
東北から出て来て5年間バイトしていた鈴木幸子(菊池美里:ドリームダン)は、今日でバイトを辞め田舎に帰るという。店が終われば彼女の送別会が予定されているが、長年バーテンをやっている浜松亨(藤崎卓也)にはその連絡が漏れていた。そのことをたった今幸子から聞かされて、憮然とする亨。
そんな亨だが、今日はオープン前から落ち着かない。かつてオール・ライトの歌姫だったシンディ(塩塚和代=元・生方和代)が、数年ぶりに店に顔を出すかもしれないからだ。亨は、ずっと彼女のことが忘れられないでいた。この店にお客が詰めかけ連日賑わっていた頃、お客たちはシンディと今では経営側に回っているマダム(椿真由美:青年座)という二枚看板の人気シンガーがお目当てだった。当時シンディはオーナーと出来ており、二人の間には幼い女の子がいた。
ところが、シンディはプロ・デビューさせてやるという怪しい客の甘言にのせられて店を辞めて消えてしまう。その後、オーナーはマダムと結ばれ、マダムは歌うことをやめて残された子を自分の娘のように育てた。そして、今に至るもマダムはシンディのことを許してはいない。
今、オール・ライトで歌っているのは、ローズ(奈賀毬子)、ジャニス(祖父江桂子)、ティファニー(福原舞弓)の三人。ジャニスとシングル・マザーのローズは、店の常連で原口まさあき似のホスト・隼(椎名茸ノ介)にご執心だ。
その隼は、ティファニーにゾッコンで店に通っている市役所勤務の冴えない公務員・国井邦明(久我真希人:ヒンドゥー五千回)に、女についての蘊蓄を披露している。ジャニスとローズは、互いにライバル心剥き出しだが、隼を毛嫌いしている幸子はこの光景を冷ややかに見ている。
ティファニーは、国井の気持ちを知りつつ適当に合わせている。彼女には、国井の想いに答える気などさらさらない。
そのティファニーに興味を持っているのは、国井だけではない。経営が苦しい店のオーナーに金を貸しているヤクザ者のジョージ(佐瀬弘幸:SASENCOMMUN)もその一人だ。しかし、ジョージが欲しいのは彼女の心ではなく体だけのようだった。
ティファニーの気を引くため、焼肉を奢ってやったジョージは、彼女同伴で店にやって来た。ジョージは、オーナーに話があるという。事務所に通されたジョージは、金が返せないことに腹を立ててオーナーに暴力をふるった。
とりあえず、一度は引き揚げたジョージだったが、いよいよオール・ライトの先行きには暗雲が垂れ込めていた。
そんな状況の中、冴えないデブのニート蜂須賀賀太郎(植木まなぶ:散歩道楽)がバイト面接で店を訪れ、亨はシンディが来るかどうか占い師の泉雲氷(上松コナン:散歩道楽)を連れて来る。そこに再びジョージがやって来て、店はいよいよカオスと化した。
おまけに、シンディのマネージャー・山田孝之(ちゅうり:タテヨコ企画)まで現れて…。
2012年に主宰奈賀毬子が立ち上げた肯定座は、順調に新作を発表し続けてこれが第4回目の公演(他に、短編公演 あり)である。残念ながら、僕は旗揚げ公演『暗礁に乗り上げろ!』を見逃したが、それ以外の公演はすべてフォローしている。
今回の公演では、第1.5回公演と第2回公演に出演していた福原舞弓(スターダスト・プロモーション)が、肯定座の正式メンバーとしてクレジットされている。ちなみに、福原は第3回公演でも手伝いをしていた。
新作は、オール・ライトという店を舞台にした音楽群像劇である。店のハコバン楽士として、渋さ知らズ界隈の関根真理&辰巳“小五郎”光英と田中裕之が生演奏するのも見どころ。ちなみに、田中はちょっとした演技も披露している。
第3回公演以外の作・演出をすべて手掛けている太田善也は、今回もなかなか緻密に畳みかける演出で群像劇を見せる。
しかし、である。肯定座常連を中心とした役者陣の演技は安定感があるし、色々な見せ場も用意されているが、それでも今回の公演に関しては、劇作的にも演出的にも満足できなかった。
本作の問題、それはほとんどのエピソードが同方向に感傷的過ぎる点である。幸子と隼、ティファニーと国井、亨とシンディ、シンディとマダム。演劇的ギミックこそ巧みに施されてはいるものの、それぞれの関係性があまりにも予定調和的な展開を見せるのは、流石にどうかと思う。舞台終盤になると、感動装置が起動するが如くお涙頂戴的な場面が矢継ぎ早に披露されるからだ。ここまでやってしまうのは、どうにもあざとい気がする。
それから、唯一のヒールであるジョージのキャラが、第2回公演『濡れた花弁と道徳の時間』 からの使い回しというのもどうかと思う。内輪的な設定という気もするが、こういうインパクトあるキャラクターを再登場させるなら、やはりそれなりの必然性は必要だと思う。
あと、気になったのが無駄とも思えるようなくすぐりやキャラクターが目につくことである。そもそも蜂須賀太郎のエピソードは物語的には脇道に過ぎるし、泉雲氷にまつわるドタバタや山田孝之のキャラクターも舞台を弛緩させているように感じた。ひろぽんの小ネタは、そもそも笑えない。役者の演技云々ではなく芝居のスピード感から言って、こういった部分をオミットして90分くらいで見せて欲しいと思った。要するに、もう少し物語的なメリハリとテンポが欲しかった。役者には、それぞれ魅力があるのだから。
さらに言ってしまうと、オール・ライトのシンガーたちの歌唱は、キーが高すぎるのか高音部分で声が出ていないのが聴いていていささか辛かった。
今回の肯定座公演も、健闘はしていたと思う。しかし、今後このユニットには新たなる世界観の提示が求められるはずだ。
次回公演は、肯定座にとってひとつの試金石となるだろう。期待して待ちたい。