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ドラマ・リーディング『死の舞踏』

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2015年2月20日、博品館劇場にてドラマ・リーディング『死の舞踏』を観た。





作:ストリンドベリ、上演台本:笹部博司・小林政広、演出:小林政広、企画・製作はメジャーリーグ。
小林政広が舞台を演出するのはこれが初めてで、仲代達矢がドラマ・リーディングをやるのも今回が初、仲代と白石加代子が共演するのもこれが初と初物尽くしである。
また、益岡徹は仲代が主宰する無名塾の4期生で、師弟の舞台共演は実に30年ぶりのことである。




ヨハン・アウグスト・ストリンドベリは、スウェーデンの劇作家で、『死の舞踏(Dödsdansen)』は1901年に発表された。




都会から遠く離れた、とある島。結婚25周年を控えた夫婦が二人で暮らしている。夫のエドガー(仲代達矢)は、傍若無人かつ傲慢不遜の暴君で、その性格が災いして大尉の地位に燻っている。
10歳年下の妻・アリス(白石加代子)は、辛辣無比で凶暴過激の悪魔的な女だ。25年前のウィーンでエドガーに出逢った彼女は、女優の仕事を捨てて結婚したが、銀婚式を迎えようという現在に至るまでずっとこの結婚を悔い続けている。
揃って強烈な個性の持ち主である意味似た者夫婦の二人を町の人々はいささか煙たがっているようで、今近くで催されているパーティにもエドガーとアリスは招待されていない。
例によって互いに毒づきながら、この夜も更けようとしていた。

本日、この島にアリスの従弟でエドガーとアリスが出逢うきっかけを作ったクルト(益岡徹)が検疫所長として赴任する。クルトは、妻と離婚しており一人息子は裁判所の裁定で妻に親権が与えられている。クルトはクルトで、一見いい人のようで実は食えない男だった。
どうせ自分たちのところなど顔を出さずにクルトはパーティの方に行くのだろうと予想していたエドガーだったが、意外にもクルトはこの家を訪問してくれた。
エドガーは彼のことを大いに歓迎する風を装うが、途中から持ち前の傲慢ぶりが顔を出し始める。
しかも、エドガーが席を立つ度、アリスとクルトの間には意味ありげで妖しい雰囲気が漂った。

そんな微妙な空気の中、三竦みのような状況で彼らは会話を続けるが…。


前半45分、15分間の休憩を挟み後半60分という尺で上演される作品である。ドラマ・リーディングは、直訳すれば「朗読劇」であり、確かに三人の役者は台本を手に演じているのだが、『死の舞踏』から受ける印象はかなりフィジカルなものだ。

12脚の椅子が配置されただけの簡素なステージ。その椅子を移動しながら、仲代達矢白石加代子という存在感・演技力ともに申し分のないベテラン役者が、声と表情と身振りで物語を進めて行く。
台本に目をやりながら、時に激しく時にとぼけて、シニカルにコミカルにと目まぐるしく表情を変える様は、なかなかの見物である。「詩のボクシング」というものがあるが、この舞台はさながら「科白のボクシング」とでも表現すべきものだろう。
そこに、第三の人物として益岡徹が加わると、劇空間がやや表情を変えて正統的な芝居の空気がもたらされるのも面白い。

本作がいいのは、単にシニシズムとニヒリズムのみでドラマを塗り固めることなく、そこに幾ばくかのヒューマニズムを隠し味的に落し込んでいるところである。
第一部は、まさに攻撃と諧謔の言葉で一気に畳みかける。それが第二部では、節目節目で舞台を暗転させセットを変更して行き、それに伴って物語も表情を変える。
物語が終幕に向かうところで、この老夫婦の間に存在していたものが憎しみと後悔だけではなかったことが露わになるのだが、そこには憎しみと愛情は表裏一体というテーゼが立ち上がって来る。
そして、ラストではフォーマルに着飾った三人の役者が、ワルツを披露するのだ。この開放感溢れる愛らしい時間には、誰もが頬を緩めることだろう。
もちろん、白石も益岡もいいが、何と言っても仲代のチャーミングさが魅力的である。

ただ、原作が1901年の古典戯曲であり、それを演劇的なギミックを削ぎ落したリーディングのフォーマットで見せるため、いささかの間延びと弛緩的停滞が散見されることもまた事実である。ここに、「ドラマ・リーディング」というメソッドの表現的限界を感じてしまうのだ。
それから、大団円のワルツ・シーンで益岡のパートには、もう少し見せ方があったのではないか?ちょっとコミカルさを引っ張り過ぎているように感じた。

いずれにしても、色々な挑戦を感じる意欲的な試みの舞台であった。
小林政広監督『日本の悲劇』出演時にも仲代は口にしていたが、本公演でも「この歳になって、まだ新しいことに挑戦できるなんて」と稀代の名優は思っていることだろう。


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